公益財団法人東京都医学総合研究所 神経病理解析室 関 絵里香
この2枚の写真はパーキンソン病の同一検体から作成された標本である。左は固定期間1ヶ月で標本を作成し、右は固定期間3年で標本を作成した。パーキンソン病の検体を抗リン酸化αシヌクレイン抗体で染めると、パーキンソン病に特徴的なレビー小体を検出できる。固定1ヶ月の切片ではレビー小体が検出された。しかし、同一検体であっても3年間固定された切片ではレビー小体を検出できない。これは過固定のため抗原が失活したためである。
剖検脳は症例ごとに亡くなるときの状況や固定条件が異なる。従って、症例によって抗原性が異なってくる。例えば、固定期間の違いは陽性細胞数に影響を与える。グラフに、ある疾患グループの切片を用いて免疫染色を行い、陽性細胞数をカウントした結果を示す。疾患グループを固定期間2ヶ月未満と2ヶ月以上の二つのグループに分け陽性細胞数を比較した。その結果、二つのグループの陽性細胞数に有意差があった。つまり、同じ疾患グループであっても、固定期間が異なる場合は抗原性が異なると言える。従って、固定期間の異なる検体は同一グループとして取り扱うことはできない。このことは、データをとる上で意識しなくてはならない点である。