公益財団法人東京都医学総合研究所 神経病理解析室

発表データ

2018 夏のセミナー 神経病理ハンズオン

中枢神経系の染色法 − 的確な病理診断のために −

公益財団法人東京都医学総合研究所 神経病理解析室 関 絵里香

免疫染色の技術的ポイント

剖検脳と抗原性

  1. 浸漬固定法で脳を丸ごと固定した場合を考える。この場合、脳表面は固定される。しかし、脳深部は固定剤が浸透して固定される前に自己融解する。従って、深部の抗原性は失活もしくは低下する。また、脳深部を固定する目的で長期間固定剤に浸漬することによって、脳表面は過剰に固定される(過固定)。その結果、脳表面の抗原が失活する。
  2. パラフィン包埋の過程における、脱水・脱脂・加温が原因で抗原が失活する。脱水・脱脂の行程では、組織をアルコール、キシレン、クロロホルムなどに浸漬する。また、パラフィン包埋の行程では組織を60℃に加温したパラフィンに浸漬する。
  3. 切片の取り扱い方によって抗原が失活する。例えば、切片をスライドグラスに貼付けた後の加温が高温の場合。また、薄切時に脱灰液を使用する場合。さらに、長期間常温で切片を放置する場合(どれぐらいが長期なのかは抗原によって異なる)。

過固定が抗原性に与える影響

この2枚の写真はパーキンソン病の同一検体から作成された標本である。左は固定期間1ヶ月で標本を作成し、右は固定期間3年で標本を作成した。パーキンソン病の検体を抗リン酸化αシヌクレイン抗体で染めると、パーキンソン病に特徴的なレビー小体を検出できる。固定1ヶ月の切片ではレビー小体が検出された。しかし、同一検体であっても3年間固定された切片ではレビー小体を検出できない。これは過固定のため抗原が失活したためである。

抗原性低下の対応策

抗原性のばらつき

剖検脳は症例ごとに亡くなるときの状況や固定条件が異なる。従って、症例によって抗原性が異なってくる。例えば、固定期間の違いは陽性細胞数に影響を与える。グラフに、ある疾患グループの切片を用いて免疫染色を行い、陽性細胞数をカウントした結果を示す。疾患グループを固定期間2ヶ月未満と2ヶ月以上の二つのグループに分け陽性細胞数を比較した。その結果、二つのグループの陽性細胞数に有意差があった。つまり、同じ疾患グループであっても、固定期間が異なる場合は抗原性が異なると言える。従って、固定期間の異なる検体は同一グループとして取り扱うことはできない。このことは、データをとる上で意識しなくてはならない点である。

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