発表データ
第62回日本神経病理学会総会学術研究会
劣化したガラス標本の修繕
関 絵里香・小島 利香・新井 信隆
東京都医学総合研究所・神経病理解析室
目的
神経病理解析室には研究所発足依頼およそ45年間にわたり作成されてきた訳5,000例の脳標本が所蔵されています。多様な神経疾患を網羅する貴重なコレクションですが、この中にカバーグラスとスライドグラスの間に空気が入ったガラス標本つまり劣化した標本が散見されます。そこで、標本を修繕しコレクションの保守管理に努めことにしました。
劣化した標本:カバーグラスとスライドグラスの間に空気が入った標本とする。
方法
- 劣化したガラス標本をキシレンの中に入れる
- カバーグラスをはがす
- 封入する
準備1:劣化した標本の抽出
神経病理解析室の脳病理標本コレクションは約5000症例あり標本数は膨大である。そこで「東京都医学研・夏のセミナー」で用いる標本360枚の中から劣化した標本を抽出しました。
準備2:カバーグラスとスライドグラスの境目のシールをはがす
カバーグラスとスライドグラスの境目のシールをはがします。これは、キシレンの浸透をシールが邪魔しカバーグラスが剥がれにくくなるからです。
準備3:キシレン耐性の容器を用意する
キシレン耐性の容器を用意します。この時、スライドグラスを染色カゴに入れません。カバーグラスが剥がれた時にカゴに引っかかってスライドグラスに傷がつくからです。
手順
- 切片をキシレンに浸して1−2週間放置する
- ピンセットでスライドグラスの端をつまんでそっと引き上げる
- カバーグラスがスッと下に落ちてはがれるのを確認する。
もしくは、容器の中にはがれたカバーグラスがあるのを確認する(カバーグラスがはがれない場合は容器に戻して方法1にもどる)
- 切片をキシレンを入れた別の容器に移し封入する
手順1:切片をキシレンに浸して1−2週間放置する
手順2、3:
- ピンセットでスライドグラスの端をつまんでそっと引き上げる
- カバーグラスがスッと下に落ちてはがれるのを確認する。
もしくは、容器の中にはがれたカバーグラスがあるのを確認する(カバーグラスがはがれない場合は容器に戻して方法1にもどる)
※カバーグラスが剥がれない場合はスライドグラスをキシレンの中に戻す
手順4:切片をキシレンを満たした別の容器に移してから封入する
- 封入剤はたっぷり使う
- カバーグラスをかけたら上から押さない。封入剤がはみ出てしまう
- カバーグラスとスライドグラスの間に気泡が入ってしまったら、カバーグラスを剥がして封入し直したほうが良い
(気泡を追い出そうと四苦八苦していると封入剤がはみ出てしまう)
結果
- 標本360枚のうち291枚が劣化していた
- 劣化した標本は必ずしも古い標本ではなかった
- スライドグラスやカバーグラスのサイズが切片の大きさに対してぎりぎりの場合、劣化しやすい傾向があった
- 小さい切片の場合は1週間、大きい切片の場合は1ヶ月間キシレンに漬けるとカバーグラスがはがれた
考察
- 切片の大きさに対してカバーグラスのサイズがぎりぎりの場合、カバーグラスの端から空気が入りやすい
- 新しい標本も劣化する。つまり劣化の程度は標本の質に依存すると考えられる
- 脳病理標本を守るため定期的に状態をチェックし適宜修繕する必要がある