関絵里香・江口弘美・新井信隆
東京都医学総合研究所・神経病理解析室
ボディアン法は、神経突起の病理構造を見るために病理診断の現場で広く用いられて来た。しかし、主要な試薬・プロテイン銀は入手困難であり、またメーカーやロットにより染色性が安定しないという問題がある。従って、ボディアン法が担ってきた役割を補い、且つ入手が容易で品質が安定した試薬を用いる代替染色法を開発する必要がある。
認知症疾患や加齢性変化等での神経原線維変化や老人斑の変性軸索(写真A)、ピック球、さらに、多系統萎縮症のグリア細胞質内封入体(写真B)など凝集体が観察できる。
下オリーブ核仮性肥大の糸球体構造(写真C)や、エンプティバスケット等のプルキンエ細胞層の神経突起変性(写真D)など、神経突起の質的な変化をとらえることができる。
正常な錐体路(写真E)と比較し、筋萎縮性側索硬化症の錐体路(写真F)における大径軸索の萎縮・脱落の検出など、神経突起の量的な変化をとらえることができる
病理診断の質を維持するために、ボディアン法が担ってきた役割を補い、また入手が容易で品質が安定した試薬を用いて、さらに操作が簡単で病理診断の現場で広く利用できる方法を開発することを目的とした。
既存の神経突起の染色法の中から、
上記条件を満たす方法を代替法とした。
病理診断の現場で利用するために、
上記条件を満たすように必要に応じて染色プロトコールの改変を検討した。
アルツハイマー病、多系統萎縮症、下オリーブ核仮性肥大、脊髄小脳変性症、筋萎縮性側索硬化症の中枢神経系の検体を用いてボディアン法との染色性を比較検討した。
(写真A)ホームズ法:神経突起および凝集体を検出する。
(写真B)ガリアス法:凝集体を検出する。
(写真C)メセナミン銀法:老人斑を検出する。
(写真D)ビルショウスキー法:神経突起および凝集体を検出するが、再現性が低い。
(写真E) 免疫組織染色(ニューロフィラメント):神経突起および凝集体を検出するが、染色ムラがある。
鍍銀液の組成を改変し、染色像の明瞭化を図った。また、鍍銀を1回に省略し操作の単純化を図った。その結果、より単純な操作でより明瞭に凝集体および神経突起の染色ができた。
鍍銀液への銅片の添加は染色性を上げる効果があるが、部位によっては共染が強くなり、神経突起よりも髄鞘が目立つことがある。
(写真A) 神経原線維変化および老人斑の変性軸索
(写真B) 多系統萎縮症のグリア細胞質内封入体
(写真C) 下オリーブ核仮性肥大の糸球体構造
(写真D) 脊髄小脳変性症のプルキンエ細胞層の神経突起
(写真E,F) 正常および筋萎縮性側索硬化症の脊髄側索
上記神経変性疾患において神経病理医による鑑別診断の結果、ボディアン法と比較し染色が明瞭ではない部分もあるが、凝集体の検出および神経突起の質的・量的な異常の検出に十分対応できると判断した。
ホームズ法を改変した結果、原法よりも簡単な操作で、凝集体および神経突起の質的・量的な異常をより明瞭に検出することができた。
また、使用する試薬は品質と供給体制が安定している硝酸銀であるため、安定して染色を実施することができる。共染の問題など克服すべき課題はあるが、改変ホームズ法はボディアン法の代替法として病理診断の現場で機能できると考えられる。