ロンドンの中心部には1950年に設立された神経学研究所(Institute of Neurology)があり、王立ロンドン大学附属クインスクエア神経病院と併設されています。また、同じくロンドンの南西部には、イギリスの精神医学の開祖のひとつであるモーズレー病院(Maudsley Hospital)に併設された精神医学研究所(Institute of Psychiatry)があります。医学総合研究所の前身である二つの神経・精神医学系の研究所である神経科学総合研究所と精神医学総合研究所は、このようなロンドンにおける、病院と研究所が隣接した2大キャンパスを雛形として、40年ほどまえに設立されました。
医学総合研究所の前身である、これら二つの研究所には、精神疾患も含む脳神経系疾患の病態解明のための神経病理研究を行う研究室が設置されて、多くのパイオニアが精力的な研究を立ち上げ、隣接する病院と共同研究を展開してきました。また、これらの研究室は、東京都知事の視察の対象となることも多くありました。
このような一連の研究の成果物として、非常に精緻な病理標本がたくさん蓄積されてきており、脳形成異常から認知症まで、ほとんどすべての年齢層、疾病カテゴリーを網羅する研究資産となっており、病態解明、診断基準の精度向上のための研究が行われているところです。
脳神経系疾患のうち、進行性の変性疾患については、変性する部位がどこか?ということに関心が注がれ、神経放射線科での神経画像診断との対比研究なども行われていました。
1990年代から、多くの変性疾患の背景に潜む異常蛋白の蓄積が免疫組織学的、生化学的に明らかにされてきており、アルツハイマー病、パーキンソン病など、提唱者の名前を冠してきた多くの疾病において、背景にある異常蛋白の蓄積の分子基盤が次第に明らかになってきました。その結果、リン酸化タウが蓄積するタウオパチー、リン酸化αシヌクレインが蓄積するシヌクレイノパチーなど、蛋白レベルでの疾患カテゴリーが提唱されています。
今から10年ほど前から、本邦のがん拠点病院を中心に、ガラス標本を高精度デジタルスキャンをするバーチャルスライド機器が導入されていますが、当研究所にも7年前に導入され、豊富な病理標本のデジタル化に取り組んできました。それらのデジタルデータをICTにより発信する仕組みを、様々な目的に活用することを検討しています。長年の研究の成果物であるガラス標本(アナログ)のデジタル化によって、イージーアクセスなe-ラーニング教材を提案してゆく予定です。