パーキンソン病などの不随意運動に対する定位脳手術においては、ターゲットの決定に際し、ヒトの脳アトラスが非常に参考となるが、既成のアトラスは、必ずしも満足のいくものではない。我々は、日本人ホルマリン固定脳標本を用いて、実際の手術に有用な全脳アトラスを作成している。
1990年代より始まった不随意運動に対する脳深部刺激術(DBS)は、淡蒼球、視床Vim 核、視床下核をターゲットとして行われてきたが、近年、これらのターゲットでは無効な症状に対し、新たなターゲットの提案がなされてきた(脚橋被蓋核、posterior subthalamic area)。また、精神疾患に対する手術もすでに海外では始まっており、次々と新しいターゲットへのDBSが報告されている。新しくターゲットを設定する際には、それらの大きさ、位置、立体構造、個人差などを知ることが重要となってくる。
我々のアトラスは、DBS手術におけるスタンダードであるACPC線を基準としたスライス面からなっており、また、50μmごとの凍結切片画像と500μmごとのKB染色切片という、今までにない細かい間隔であり、更にcomputer上で3D化し、任意の位置で任意の断面図を作ることができる。個人差の問題に対しては、検体数を増やす予定であり、全ての構造物について、個人差の検討も行うことができる。最近ヨーロッパで始まった、黒質網様部へのDBSを受け、黒質の解剖に関する考察を行っている。また、最近増加してきた、posterior subthalamic areaへのDBS関しても、解剖学的検討を行っている。さらにデジタルアトラスとして、脳神経病理データベース上への掲載をゴールとして活動している。